切なさ満載のお洒落コード 〜サブドミナントマイナー〜

2021-03-15

前回、前々回のトピックでそれぞれメジャー(長調)とマイナー(短調)のシンプルなコード進行をいくつか取り上げました。

メジャーはシンプルでマイナーは色々な選択肢があるという印象を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、メジャーは明るく爽やか朗らか、マイナーは切なく悲しくシリアスな感じという雰囲気も感じていただけたのではないかと思います。

しかし、何事もそんなにはっきりパッキリと分別できるものではないですよね。

人生も明るく楽しいだけとか悲しく辛いだけというものではなく、楽しい中にも寂しく思うこともあったり、辛い日々の中にも嬉しいことがあったりしますね。

音楽も同じで、様々な感情を内包していて、それが人の心に触れて響くものだと思います。

今回のトピックではシンプルな曲に大人びた心情の複雑さを持たせ、曲の表現力を深めるコードの使い方に触れたいと思います。

【今回のポイント】
●長調と短調の合わせ技
●転調、部分転調という考え方
●部分転調の参考例

《目次》

喜びと悲しみの共存

人生は悲喜こもごも、人の心は常にゆり動いていて喜怒哀楽という言葉があるように様々な表情があります。

その表情の豊かさを楽曲でも表現したいと思うのは作曲やアレンジをしていたら自然なことです。

それはメロディー、歌詞、楽器のフレーズ、リズム、テンポなど色々な要素で演出できますが、コード進行もとても重要なポイントになってきます。

今まで取り上げてきた内容でも、あっと驚くお洒落なコード進行が作れるので、ぜひあなたの作品やアレンジにも取り入れてみてください。

その方法はいくつかあるのですが、今回はメジャー(長調)にマイナー(短調)のエッセンスを取り入れる方法を取り上げたいと思います。

メジャー(長調)のコードはナチュラルマイナースケールと同じコードの順番違いになっているので、同じコードを使ってもマイナーのメロディーを乗せることでマイナーの雰囲気を出すことはできます。

しかし、今回は朗らかな人が一瞬垣間見せる寂しげな表情、「え?こんなに明るい人でもそんなに悲しい思いを抱えていたんだ」というハッとさせられるような、言ってみればちょっと恋に落ちてしまいそうな胸キュンポイント(死語)を今までの知識を使って作ってみましょう。

ポイントは一瞬の表情です。

楽しげな会話がじわじわと寂しい内容に変わっていくのではなく、楽しい会話の中でチラッと覗く哀愁。

それをコード進行に置き換えてみると、メジャー(長調)の流れの中で一瞬現れるマイナー(短調)のダイアトニックコードとなります。

喜びのメジャー(長調)と哀愁のマイナー(短調)。

これまでのコード進行はひとつの調の中でのコード進行でした。

今回は一瞬だけメジャー(長調)にマイナー(短調)のコードを借りてくるという方法ですが、このように長調と短調に限らず、ハ長調からヘ長調に変わるなど長調と長調、短調と短調でも同じで、調(キー)が変わることを転調と呼びます。

一瞬の切なさ サブドミナントマイナー

転調にも色々とありますが、今回は一部分だけ他の調のコードを借り入れてくるもので、部分転調と呼ばれるテクニックの一つになります。

今回取り上げるのはメジャー(長調)の中にマイナー(短調)のコードを組み込む代表的な方法で、J-Popのヒット曲などで多用されるお洒落コードワーク、その名も「サブドミナントマイナー」です。

サブドミナントマイナーと聞くと、まずサブドミナントという言葉が連想されるのではないでしょうか。

メジャー(長調)でもマイナー(短調)でも、ダイアトニックコードでサブドミナントといえば4番目のコードでしたね。

メジャー(長調)の中にマイナー(短調)のサブドミナントコードを使うと、そのコードはサブドミナントマイナーと呼ばれます。

一番分かりやすい使い方はメジャー(長調)のIVの代わりにIVmを使う方法です。

例えば、I – VIm – IV – Vのメジャーなコード進行のIVをIVmに入れ替えるとこのようになります。

どうでしょう、IVmの時にちょっと雰囲気が変わったのが感じられるのではないでしょうか。

このちょっと変わったなというさりげない感じがサブドミナントマイナーの持ち味で、メジャー(長調)の中にふいに現れ、かつ、あからさまなマイナー感じゃないために気づかない人には意識されない、だけどなぜか少し胸にグッとくる感じが切ない歌詞やメロディーとタッグを組むと最高に効果を発揮します。

サブドミナントマイナーの例

J-Popを聴いているとサブドミナントマイナーが効果的に使われている曲がいくつもあります。

サブドミナントマイナーは日本人好みのワビサビなコード進行と言っても良いでしょう。

顔で笑って心で泣いて、口にしたいけど言えない気持ちなど、表立って表現はしなくても滲み出る憂いをコードで表現したい時、サブドミナントマイナーを使うのはとても有効な方法です。

また、メジャーセブンスコードがそうであったようにメジャーの響きの中にマイナーの響きが混ざることでお洒落な響きが生まれました。

(例)
  Cメジャーセブンス:C – E – G – B
  Cメジャー:C – E – G
  Eマイナー:E – G – B

そのメジャーの中のちょっとしたマイナー感をコード進行で表現したのがサブドミナントマイナーで、メジャー(長調)の中にマイナー(短調)のコードをブレンドすることで、無邪気さ明るさ朗らかさだけの世界ではなく、そこに憂いや陰り物悲しさを含んだ大人らしい雰囲気の曲に仕上げることができます。

お洒落で大人びた曲、都会的な曲を書きたいけど、なかなかそのような曲が書けないとお悩みの方は、サブドミナントマイナーを使ってみてはいかがでしょうか。

さりげない使い方

メジャーのコード進行のIVをIVmに差し替えるのは一番シンプルで使いやすいサブドミナントマイナーの使い方です。

I – VIm – IV – V に続いてIIIm – VIm – IV – V もサブドミナントマイナーを使ってみましょう。

これも綺麗にコードが繋がっていきますね。

前後のコード進行を気にすることなくIVをIVmに入れ替えるだけで使えるなんて便利ですね。

この使い方はさらっと流れていくコード進行で、とてもさり気なくて自然な流れの中でのマイナー感の演出方法です。

マイナーへの変化を強調する使い方

これとは反対に、サブドミナントマイナーへの変わり目を聞かせて切なさを強調することもできます。

IVmを単体でメジャー(長調)のコード進行の中に組み込むのではなく、あえてIVとIVmの違いを強調することでマイナーな感じを前面に打ち出して、その変化でグッと聞き手の心のツボを押す方法です。

メジャー(長調)のコード進行の例の中で I – I – IV – IV というコード進行がありました。

このIV – IV と続くところをIV – IVm とすることで、サブドミナントからサブドミナントマイナーへの変化を前面に打ち出して、マイナー感を強調することができます。

IVからIVmへの進行は、このようなコード進行でさらに効果が上がります。

IV – IVmはグッとくるコード進行なので、泣きのポイントで使うととても効果的です。

コード進行を滑らかにする使い方

メジャー(長調)でもマイナー(短調)でもサブドミナントグループに属するコードがありました。

 【長調のサブドミナントグループ】
  IIm

 【短調のサブドミナントグループ】
  IImb5、bVI、bVII

これらのコードはサブドミナントの代理コードとして使うことができます。

それはサブドミナントマイナーでも同じで、IVmの代わりにIImb5、bVI、bVIIに入れ替えることができます。

IVmをbVIに変えることで上から下がってくるコード進行の流れが生まれました。

このようにサブドミナントコード同士で入れ替えることで、響きの流れを調節することができます。

また、IとVImのコードの間にbVIIを挟むことでコード進行の流れを滑らかにすることもできます。

これはマイナー感を演出する使い方とは異なりますが、メジャー(長調)の中でダイアトニックコードの補完的なコードとしてサブドミナントマイナーを使う方法と言えます。

大人びたコード進行の秘密 モーダルインターチェンジ

マイナー(短調)に比べるとバリエーションの乏しいメジャー(長調)のダイアトニックコードですが、予備のコードとしてサブドミナントマイナーも使えるようになると、曲の表現力やアレンジ力が数段高まります。

同じ音から始まるメジャー(長調)とマイナー(短調)は同主調(どうしゅちょう/Parallel Key)と呼ばれる関係で、この同主調のメジャーとマイナーを行ったり来たりする(コードを借用する)手法をモーダルインターチェンジと呼びます。

モーダルインターチェンジは都会的で大人びたお洒落サウンドの要となります。明暗折り混ざった複雑な人間の機微を表現するのに向いているコードの使い方なので、そのようなサウンドを求めている方にはお勧めです。

ちょっと堅苦しい名称ですが、モード(雰囲気)の交換という感じで頭の片隅にでも置いておいてください。

サブドミナントマイナーの部分は調(キー)がメジャー(長調)から一時的にマイナー(短調)に変わっていますので、その部分で使うフレーズやメロディーはマイナースケールで組み立てる必要があります。

そこだけはちょっと難しいところ、考えどころではありますが、基本的にはサブドミナントマイナーの部分ではコードトーンを優先して、コードトーン以外はメジャースケールの構成音、それでも合わない場合はマイナースケールの音を使うという考え方で十分です。

一時転調時のスケールの使い方も後々取り上げていこうと思いますので、楽しみにしていてください。

今回はサブドミナントマイナーで転調や一時転調、モーダルインターチェンジについて触れましたので、次回も引き続き転調についてお話ししたいと思います。

それでは、次のトピックでお会いしましょう。

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