ドミナントセブンスをツーファイブに分解

ここのところドミナントセブンスコードを集中的に取り上げていますが、ドミナントセブンスコードはまだまだ語り切れないほど色々な使い方や可能性を持ったコードです。

ダブルドミナント、セカンダリードミナント、裏のドミナントコードなどを取り上げてきましたが、今回はそれらをさらに音楽的に膨らませてみたいと思います。

作曲やアレンジに使うと曲調が大人びたり、少しジャズっぽくなったりしますので、興味のある方にはとても役に立つ内容だと思います。

【今回のポイント】
●ツーファイブの解説
●セカンダリードミナントのツーファイブ化
●裏のドミナントのツーファイブ化
●裏のツーファイブ

ツーファイブのおさらい

ドミナントセブンスコードはトニックのコード(そのキーの1番目のコード、ハ長調ならCメジャー、ニ短調ならDマイナー)への解決感が強く、V-Iのコード進行はドミナント進行と呼ばれています。

ドミナント進行は数あるコード進行の中でも際立って強い解決感のあるコード進行なので、曲のラストの一番大きく締め括りたい時に使うととても有効で、言ってみれば大エンディング的なキメのコード進行になります。

最後の必殺技、相手をノックダウンさせるフィニッシュブローのようなコード進行です。

しかし、大ぶりな技は単発ではなかなか当たらないものですよね。

強烈なストレートのパンチは破壊力がある反面、モーションが大きいのでタイミングや相手の動きを見極めないと当てるのは難しいですし、格闘ゲームでも必殺技は単発では当てにくかったりします。

ボクシングではジャブで相手の隙を作ってからストレートを打ち込むワンツーというコンビネーションがあります。

格闘ゲームでも通常技をキャンセルさせてから必殺技を出したり、相手がのけぞっている間に次の強力な技を出したりしてコンボにしますよね。

強力なドミナント進行の前にジャブとなるコードを入れてドミナント進行のコンボを作るのが、ツーファイブです。

実際に音を出して確認してみましょう。

Em7 – Am7 – Dm7 – G7 – CMaj7

このコード進行を弾いてみて下さい。

このコード進行は4度進行でできています。

それぞれのコードのルート(根音:Em7ならE)が次のコードへ4度で進行しています。

4度進行はかなり強いコード進行です。

ダイアトニックコードで分析するとこのようになります。

IIIm7 – VIm7 – IIm7 – V7 – IMaj7

V7の前にIIm7がありますよね、IIm7からV7はこのように強くて自然な流れの進行になっていて、V7のストレートのジャブとなるのがIIm7になります。

今回のトピックは、このツーファイブの応用技の解説になります。

セカンダリードミナントのコンボ化

曲のキーのダイアトニックコードに解決するドミナントセブンスコードは、セカンダリードミナントコードと呼ばれます。

前述のコード進行の中でIIm7に解決するセカンダリードミナントコードはVI7になります。

IIIm7 – VI7 – IIm7 – V7 – IMaj7

結果として、「IIIm7 – VI7」と「IIm7 – V7」の2つのツーファイブができました。

では、VImに解決するセカンダリードミナントはどのコードになるでしょう?

4度進行をさかのぼるので、VIm7に解決するのはIII7になります。

セカンダリードミナントのコードが見つかったところで、今度はこのIII7をツーファイブにしてみたいと思います。

IIIm7 – VI7 – IIm7 – V7 – IMaj7 の時はVImをVI7に置き換える事でツーファイブ化ができましたが、例えばこんなコード進行だったらどうしたら良いでしょう?

III7の手前のコードとなるIMaj7を違うコードにしてしまうと曲想が変わってしまうのでそれは避けたい、でもIII7をツーファイブにしたい…コードを入れ替える時にそんなシチュエーションも出てくるかと思います。

そんな時は、こんな技があります!

III7の小節内でツーファイブ化してしまうのです!

という4小節はこのようになります。

なるほど、III7のコードが担当する範囲の中でツーファイブ化するんですね。

このようなドミナントセブンスコードのツーファイブ化はとても便利で、曲の流れを保ちつつもセカンダリードミナントをコンボにする事で「セカンダリードミナントが突然現れた感」を和らげる事ができます。

曲の流れの中にセカンダリードミナントを含んだツーファイブの小さな流れを組み込んで、一瞬「おや?」と聞き手を引きつけて、また元の曲想に戻るという感じで、ちょっとしたスパイスのような効果があります。

大きな流れの中に小さな流れを組み込むので、多重構造的なコード進行になりますね。

また、ツーファイブを多用するとジャズのような都会的な雰囲気になるので、どことなく大人びて洗練された雰囲気が演出できます。

ところで、先ほどのIII7のツーファイブ化なのですが、「なんでVIIm7じゃなくてVIIm7b5なんだろう?」と疑問に思われた方もいるのではないでしょうか?

「III7が解決するコードがVIm7でマイナーだから、ここはマイナーのツーファイブにした」…とも言えそうですが、ちょっと違います。

メジャーのキーのダイアトニックコードの中で7番目のコードはVIIm7b5になります。

なるべくダイアトニックコードに含まれているコードを使うことで、曲想をほどよく保ったままIII7をツーファイブ化する事ができるんですね。

と言っても、VIIm7b5はIII7の時しか使わないので、「メジャー(長調)のIII7をツーファイブにする時にはVIIm7ではなくてVIIm7b5を使う」と覚えておけば十分です。(もちろん、あえてVIIm7を使うのもありです。)

もう一つ例を挙げてドミナントセブンスのコンボ化に慣れていきましょう。

というコード進行があったとします。

IVMaj7に解決するI7がセカンダリードミナントになっています。

これをツーファイブでコンボ化するとこのようになります。

4小節目のV7もツーファイブにするとこのようになります。

それぞれに違った雰囲気がありますね。

ここで大切なのは、その曲をどんな雰囲気にしたいかという点です。

どれが正解とか、どれが高度とかそういうものではなくて、”その曲が求めているのはこういう感じ”というところでツーファイブを使うか使わないかを選んでもらえたらと思います。

何でもかんでもツーファイブにすれば良いかというと、そういうものでもありません。

IMaj7からI7への流れは、コードの内声を一つだけ半音下降させる「さりげない」コード進行で、ちょっと切ない雰囲気を演出しています。

それをツーファイブ化したIMaj7からのVm7 – I7は、都会的かつドラマチックで力強い進行になりますが、さりげない雰囲気は失います。

締めのコードへの進行となるIVMaj7からのV7は、並行進行でじわっと気分が上がっていく高揚感や自然な流れが感じられますが、ツーファイブ化したIVMaJ7からのIIm7 – V7はIVMaj7からの流れが途切れてしまう印象があります。

それぞれのコード進行にそれぞれの味や表情がありますので、その曲がどんな雰囲気を求めているのかによってツーファイブ化をするのかしないのかを選んでもらえたらと思います。

裏のドミナントもコンボにしてみる

ドミナントコードをツーファイブ化できる事が分かりました。

さて、ここで思い出してもらいたいのが前回のトピックで取り上げた裏のドミナントです。

もちろん、裏のドミナントもツーファイブ化できます。

先ほどのコード進行で確認していきましょう。

VI7とV7を裏のコードに置き換えてみます。

はい、半音下降のコード進行ができました。

今度はbIII7とbII7の手前のコードをそれぞれのツーになるコードに入れ替えてみます。

なんとも聴き慣れないコード進行が誕生しました。

言うなれば、裏のツーファイブといったところでしょうか?

ドミナントセブンスコードが並行世界に迷い込んだと思ったら、そっちの世界で冒険をして最後に元いた世界線に戻ってくるという、小説や漫画にありそうな展開です。

まさに異次元のコード進行。

最初は違和感があったかもしれませんが、聴き慣れてくるとこれはこれでアリな感じがしますね。

ダイアトニックコードから外れまくっているのに不思議なものです。

裏のツーファイブを使って異次元を旅してみる

もし、この物語の主人公が元の世界と並行世界を自由に行ったり来たりできるとしたらどうなるでしょう?

これが表世界の日常だとします。

可能性としては、こんな物語も考えられます。

最後に裏世界に迷い込む物語。

途中で裏世界に迷い込む物語。

裏世界スタートの物語。

後半が裏世界舞台の物語。

表世界で始まりつつも、ほとんど裏世界が舞台の物語。

これは今までにも出てきた表と裏を行ったり来たりする物語。

この場合はツーファイブに直接な繋がりはありませんが、裏コードの中のトライトーンの解決でコードの流れが継承されています。

…ということは、それを裏の世界に持ち込むと…

裏から始まる行ったり来たりの物語が生まれます。

裏の半音下降進行といったところでしょうか。

これを発展させると…

一瞬だけ表に戻ってくる物語が生まれたり、

クライマックスで表に戻ってくる物語が生まれたり、

一瞬だけ裏世界を覗く物語が生まれたり、

裏と表で下降進行を繰り出す物語が生まれたりと、色々な可能性が生まれてきます。

ここまでくると、世界線の構築も訳が分かりませんね。

曲想やメロディーとの兼ね合いで使える使えないは出てくると思いますが、基本的な3−6−2−5のコード進行からこれほどのバリエーションが生まれるとは驚きです。

裏のコードも、ツーファイブもドミナントセブンスコードを分解・発展させた事が起点になっています。

ドミナントセブンスコードの奥深さを垣間見た気分ですね。

いろんな可能性はあるけれど

異世界を旅しすぎて頭が疲れてしまいましたが、ドミナントセブンスコードにはこのような可能性があることを体験してもらえたのではないかと思います。

何でもかんでも裏を使えばハイレベルというものでもありませんし、知識自慢のアレンジになってしまって曲の美しさや伝えたい気持ちを置き去りにしてしまっては元も子もありませんので、使い所を吟味して、どれぐらいのさじ加減で使うのかというのが大切になってきます。

そして、そのさじ加減もあなたのアーティストとしてのキャラクターの確立に役立ってくるものと思います。

自然を歌ったり、素朴な気持ちや、日常的なことを表現するなら裏はあまり使う必要はないでしょうし、都会的な事柄や複雑な心理描写、狂気が混じるような表現をしようと思ったら裏のコードを効果的に使うことで、思い描いたイメージに近いものになるかもしれません。

どのような手法を選ぶとしても、その曲やアーティストが表現したいこと、聴き手に伝えたいことを音にしてみたらという発想でコードを選んでもらえたらと思います。

最後に、今回の参考例を動画にしてみました。

ピアノの打ち込みがあまりうまくないので、ちょっと繋がりが悪い箇所もありますが、それぞれの4小節のコード進行が最後にCMaj7に解決できるものと思って聞いてみてください。

いやぁ〜、ドミナントセブンスコードって本当に色々な世界に飛び立てるコードですね。

次回のトピックでは、さらにドミナントセブンスコードの異世界っぷりを取り上げてみたいと思います。

それでは、また次回のトピックでお会いしましょう♪