四和音の複雑な響きの秘密
四和音の響きって複雑でお洒落な大人っぽいサウンドに聞こえませんか?
僕が三和音から四和音の世界に足を踏み入れた時は、自分の作る曲がグッと上品になった気がしたものです。
実際のところはコードの響きに耳を奪われていただけで、コード進行の部分を理解していなかったので深みのある曲にはならなかったのですが(^^;
それでも、それまでの三和音のコードを四和音に換えただけで大人びた音世界に曲が化けたのはちょっとした衝撃でした。
三和音から四和音を使い始めた頃って、似たような新鮮さを感じた方もいるのではないでしょうか。
でも、音が一つ増えただけで何であんなにお洒落な響きになるんでしょうね。
今日のトピックは、そんな四和音の響きの秘密に迫ってみたいと思います。
【今回のポイント】
●四和音の分解
●転回すると別のコードになる四和音
●四和音を知ることで見えてくる三和音の魅力
これらの知識を押さえておくと、四和音の響きの特徴がイメージしやすくなりますし、三和音と四和音を音楽的に使い分けることができるようになってきます。
ちょっと難しい話になるかもしれませんが、今までとは違った視点で四和音を扱えるようになるかもしれませんので、根気よくお付き合いいただけたらと思います。
大人びた響きの四和音
四和音は三和音にさらに一つ音を追加した和音です。
「メジャー」+「ルートから見た長7度」=「メジャー7th」
「メジャー」+「ルートから見た短7度」=「ドミナント7th」
「マイナー」+「ルートから見た短7度」=「マイナー7th」
「マイナーb5」+「ルートから見た短7度」=「マイナー7th b5」
メジャースケールとナチュラルマイナースケールではこの4種類がダイアトニックコードとして登場しました。
他にもコードの種類はあるのですが、この4種類の使用頻度が高いので例に挙げて解説していきます。
四和音はお洒落な響きだと言われることが多いですが、それぞれどのように聞こえるのか確認してみましょう。
「メジャー(明るい響き)」 +「長7度」=「憂いのある明るさ、涼しさのある明るさ」
「メジャー(明るい響き)」 +「短7度」=「緊張感ある響き、解決感を求める不安定さ」
「マイナー(悲しげな響き)」+「短7度」=「マイナーよりも悲しさが和らいだ響き、湿り気のある寂しさ」
「マイナーb5(重たげな響き)」+「短7度」=「切迫感のある響き、困難を抱えたような苦しさ」
主観的な表現なので、人によって受ける印象は違うと思いますが、大まかに捉えるとこのような感じの響きと言えそうです。
メジャーの喜びの中にも、どこかためらいの感じられるメジャー7th、マイナーの悲しさの中にも一歩引いているようなマイナー7th…、嬉しいのにはしゃぎすぎない、悲しいのに悲しみに溺れすぎない…そのような中間色的な表情があります。
色に例えると三和音が基本となる色で、四和音はそこに他の色味が混じっているような感じといったところでしょうか。
あるいは、三和音が混じりっ気のない純粋な感情、子供のように素直な感情、真っ直ぐな気持ちだとすると、四和音は抑えた喜びや控えめで節度のある感情表現というように、素直に気持ちを表現しきれない事情がありそうな響きをしているとも言えそうです。
抑制のきいた感情表現…まるで大人の心情を表現しているような複雑な響きですね。
四和音は、なぜこのように複合的な響きになるのでしょう?
それは…四和音には隠れたコードが存在しているからなのです。
四和音の中の三和音
●メジャー7thは大人びたメジャー
●マイナー7thはおしゃれなマイナー
●ドミナント7thはブルージーなコード
●マイナー7th b5は複雑なマイナー
なぜこのように聞こえるのか、四和音を分解してみましょう。
メジャー7thの分解
まず、メジャー7thから見ていきましょう。
四和音は三和音に一つ音を足したものですが、
見方を変えると二つ目の三和音が同時に存在していることが見えてきます。
なんと!
Cメジャー7thというメジャーのコードの中に、Eマイナーコードが隠れていました!
そうなのです。「メジャー」と「マイナー」が共存しているのがメジャー7thの響きの秘密だったのです。
なるほど、これなら嬉しさの中に憂いがあるのも納得です。
喜び100%の子供の頃から色々と人生経験を経た大人ならではの微笑みのような響きになる秘密は、メジャーでありつつもマイナーを内包している和音構成にありました。
まさに、どこか切なさを秘めた微笑みに胸キュン(死語)してしまうお洒落コードですね。
他の四和音もどうなっているのか見ていきましょう。
マイナー7thの分解
マイナー7thはどうなっているのでしょうか?
Dマイナー7thは「Dマイナー」と「Fメジャー」が共存していました。
なるほど、マイナーの悲しさの中にもどことなく希望や悲しみすぎない作用が働いているように感じられるのは、メジャーの要素を含んでいたからなのですね。
ドミナント7thの分解
ドミナント7thはどうなっているのでしょう?
Gドミナント7thは「Gメジャー」と「Bマイナーb5」が共存しているようです。
明るい響きのメジャーに重い雰囲気のマイナーb5が作用して、独特な緊張感や落ち着かない感じが生まれているんですね。
このメジャーな感じがありつつも、明るくなりきれない感じがブルージーな響きと言われるコードならではという感じです。
マイナー7th b5の分解
最後にマイナー7th b5はどうなっているのか見てみましょう。
Bマイナー7th b5は「Bマイナーb5」と「Dマイナー」でマイナー系呪文の二倍がけという感じですね。
これはかなり憂鬱な気分になりそうです。
悲しいマイナーの雰囲気から、さらに一段落ち込んだような深刻な響きなのも分かる気がします。
こうやって分析してみると、四和音の響きは「表となる基本の三和音に対して、影の三和音が隠し味的に作用している」とも言えそうです。
「四和音=三和音+1音」という考え方をすると「メジャー7thはこういうもの」「マイナー7thはこういう響き」とサラッと覚えてしまって、なかなかその違いを実感しにくい人もいるかもしれませんが、このように分解して2つの三和音が見えてくると、それぞれの四和音の性質の違いがなんとなく肌で感じられるような気がしませんか?
さて、四和音の複雑さはこれだけではありません。
中間的な響きのする四和音には、このような裏の顔もあったのです。
(なんだ、この昼ドラのような展開は? さすが大人な響きのコードですね!)
転回すると違うコードになる四和音
メジャースケールを6番目の音から並び替えるとナチュラルマイナースケールになりました。
その反対に、ナチュラルマイナースケールの3番目の音から並び替えるとメジャースケールになりました。
同じ音の並び方なのに順番が変わるだけで違うスケールになる…実は、四和音にもそんなコードがあるのです。
代表的なのがマイナー7th。
Dm7を例に挙げて、実際にどうなっているのか見てみましょう。
マイナー7th = メジャー6th
Dm7の構成音は「 D – F – A – C 」です。
「 D – F – A 」のDマイナートライアドにルートのDから見て短7度の「C」が乗った形ですが、これをFから並び替えてみると…
「 F – A – C – D 」になりました。
これは「 F – A – C 」のFメジャーコードにルートのFから見て長6度の「D」が乗ったコードの「F6」というコードになります。
四和音は「 R – 3 – 5 – 7」という構成が基本となりますが、4番目の音は必ずしも7度である必要はありません。使用頻度はそれほど多くはないかもしれませんが、4番目の音に6度が使われることもあります。(4番目の音を低い方向へ入れ替えると6thですが、高い方向へ入れ替えるとオクターブ上のRになるので、これは四和音にはなりません。)
「メジャートライアド」+「ルートから見た長6度」=「メジャー6th」
「マイナートライアド」+「ルートから見た長6度」=「マイナー6th」
6thコードの4番目の音はメジャーもマイナーも「ルートから見た長6度」になります。
マイナー7thの2番目の音から並び替えるとメジャー6thになりました。
「 D – F – A – C 」→「 F – A – C – D 」
逆の発想で、メジャー6thの4番目の音から並び替えるとマイナー7thになります。
「 F – A – C – D 」→「 D – F – A – C 」
メジャー6thはメジャー7thに比べると湿り気がある響きと言いますか、メジャーなのに随分と陰りのあるコードになります。
僕はボサノバをよく弾くのですが、ボサノバではメジャー7thよりもメジャー6thが使われる傾向にあります。
ボサノバがアンニュイでどこかはかない感じやたそがれた感じがするのは、このメジャー6thコードの存在も大きな要因となっています。
メジャーコードなのに構成音がマイナー7thと同じなのですから、メジャーともマイナーとも言い切れない中間的な雰囲気になるのも、なるほどといったところですね。
また、マイナー7thがマイナーコードなのにどこか希望があるような感じがするのは、構成音がメジャー6thと同じだという事を知ると納得です。
マイナー6th = マイナー7th b5
マイナー7thを並び替えるとメジャー6thになるのが分かりました。
次に、マイナー6thも見てみましょう。
Dマイナー7th「 D – F – A – C 」の4番目の音の短7度を半音下げるとDマイナー6th「 D – F – A – B 」になります。
Dマイナー6thの4番目の音から並び替えると、「 B – D – F – A 」のBマイナー7th b5になります。
マイナー7thはマイナーの中にも明るさや爽やかさが感じられるコードでしたが、マイナー6thは落ち込んだ気分の響きと言いますか、ドツボにハマった気分のような暗い響きのコードになります。
並び替えるとマイナー7th b5になるということを考えると、その理由も理解できますね。
この辺りはジャンルによってはあまり使うことはないと思いますので、四和音は並び替えると違うコードになることもある例として頭の片隅に置いておいてもらえたら十分です。
ボサノバではマイナー6thもよく使われますが、このコードもボサノバらしさを強調するコードだなぁと実感します。
ちょっと脱線する話ですが、ボサノバの曲を書いたのにどこかボサノバっぽいウェットな雰囲気にならないなぁという時は、メジャートライアドやメジャー7thをメジャー6thにマイナートライアドやマイナー7thをマイナー6thに入れ替えると、グッとブラジルっぽい雰囲気になるのでお勧めです。
逆の発想で、ブラジルっぽい土着的なボサノバを都会的なジャズっぽい雰囲気にしたい時は6th系のコードを7th系の四和音に変えるとコアな感じのボサノバからポップな感じになるので、これもまたお勧めです。
四和音と三和音の使い分け
コードの中に他のコードの響きを内包していたり、並び替えると違うコードになったりする中間的な響きの四和音は、多面性がある複雑な響きの和音ですね。
四和音が大人っぽいコードに聞こえるのも、このような点を知ると論理的に理解できると思います。
例えば、あなたの曲の三和音をそれぞれのダイアトニックコードに照らし合わせて四和音に入れ替えるだけで、グッとお洒落な曲に変わります。
しかし、なんでもかんでも四和音にすれば曲が素晴らしくなるのかというとそういう訳でもありません。
もう一度、四和音が内包する三和音を確認してみましょう。
「メジャー7th」=「メジャー」+「マイナーの隠し味」
「マイナー7th」=「マイナー」+「メジャーの隠し味」
「ドミナント7th」=「メジャー」+「マイナーb5の隠し味」
「マイナー7th b5」=「マイナーb5」+「マイナーの隠し味」
四和音は複雑な響きのコードですが、少し濁った感じの響きになります。
これを感情で表現してみます。
「メジャー7th」=「明るさ」+「悲しさの隠し味」
「マイナー7th」=「悲しさ」+「明るさの隠し味」
「ドミナント7th」=「明るさ」+「重苦しさの隠し味」
「マイナー7th b5」=「重苦しさ」+「悲しさの隠し味」
「あれ?四和音は複雑で繊細な感情を表現するには良いかもしれないけど、明るさ100%や、ただただ悲しいというような混じりっ気のない気持ちを表現する時はどうするんだろう?」そう思われた人もいるのではないでしょうか。
大人になると子供の頃のように素直には笑えなかったり、悲しいのに悲しみを堪えてしまったりしますよね。
あの頃のように真っ直ぐな気持ちでいられたらなと思う人もいるかもしれません。
大人になってみることで分かる、子供の頃の素直さや真っ直ぐさの輝きもありますよね。
それと同じように、四和音を知ることで分かってくる三和音の響きの魅力もあります。
三和音の透き通った響き、濁りのない真っ直ぐさは四和音にはない魅力です。
その真っ直ぐさは純粋さ、神聖さや荘厳さや、素朴な自然の世界にも通じます。
教会音楽、そこから発展したクラシック音楽、ゴスペル、カントリーやフォーク音楽の世界は三和音の澄んだ響きが肝になっています。(もちろん全ての曲がということではありません)
四和音は都会的な響きですが、都会の中で生きる人間の苦悩も内包する響きという面もありそうです。
三和音は素朴な響きや原始的な響きとも言えますが、純粋で透明感のある響きなので自然界や神聖な世界の響きという面もあります。
このようなイメージが養われてくると、作曲やアレンジの際に四和音や三和音の魅力を意識しながら使い分けることができるようになってきますし、ジャンルによって三和音、四和音、さらにはテンションコードなどを効果的に選ぶことができるようになります。
都会的なリズムには四和音やテンションコードが似合いますし、荘厳な曲には三和音の濁りのない響きが合います。
それぞれのジャンルやスタイルに主に使われるコードが三和音なのか四和音なのかを知っておくと、より一層、その世界の雰囲気を演出しやすくなります。
自分が求める音を根拠を持って選んで使っていけることは、音楽をしていく上でとても価値のあることです。
こんな感じでこれからも知識を得て、理解を深めていくことを楽しみながら音楽の旅を楽しんでいきたいものですね。
きっと、その旅の中であなたの音楽や表現力が深みを増して、いつか誰かの心に何かを届けられるようになっていくことと思います。
僕たちの音の世界の冒険はまだまだ続きます。
そんな訳で、To Be Continue…また次のトピックでお会いしましょう。
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