マイナーコードでのスケール3択 〜ドリアン、フリジアン、エオリアン〜
前回のトピックではメジャーのコードでのアイオニアンスケールとリディアンスケールの使い分けについて取り上げました。
リディアンスケールの使い所が意外と多かったこと、メロディが少し外れて聞こえる時に考えられることなど、今までご存知なかった方には一歩踏み込んだ内容になったのではないでしょうか。
今回は、マイナーコードでのダイアトニックスケールの使い分けのお話をしたいと思います。
【今回のポイント】
●マイナーコードでのスケール選択
●3つのスケールの共通音
●マイナーペンタトニックを絡めてみる
1つのマイナーコードに3つの選択肢
メジャースケール、ならびにナチュラルマイナースケールのダイアトニックスケールでマイナー7thコードに対応するのはドリアンスケール、フリジアンスケール、エオリアンスケールの3種類です。
構成音はそれぞれ、このようになっています。
【ドリアンスケール】
1-2-b3-4-5-6-b7–1(8)
【フリジアンスケール】
1-b2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
【エオリアンスケール】
1-2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
エオリアンスケールを基準にすると、ドリアンは6の音がナチュラル、フリジアンは2の音がフラットしているのがそれぞれの特徴になっています。
【エオリアンスケール】
1-2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
【ドリアンスケール】
1-2-b3-4-5-6-b7–1(8)
【フリジアンスケール】
1-b2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
色分けすると分かりやすいですね。
Cマイナー7thコードの中で、Cエオリアン、Cドリアン、Cフリジアンの3種類のスケールで同じフレーズを聴き比べてみましょう。
どうでしょう?何がどう違うのかは別にして、雰囲気が違うのは感じられますね。
同じコードでも使うスケールによって雰囲気がこのように違うとなると、意図しないスケールを使ってしまって「あれ?なんか違うぞ?」となるのも納得です。
曲の中で転調していなければ、キーにあったスケールを使っていればこのようなトラブルは起こらないんですけど、転調が混ざってくるとトラブルも起きやすくなります。
今回はそのトラブルについて考察してみましょう。
迷ったらダイアトニックを確認
エオリアン、ドリアン、フリジアンスケールは、それぞれメジャースケール内のダイアトニックコードのVIm、IIm、IIImに対応しています。
エオリアン = VIm
ドリアン = IIm
フリジアン = IIIm
ナチュラルマイナースケールですと、 このようになります。
エオリアン = Im
ドリアン = IVm
フリジアン = Vm
転調が無い場合にスケール1発でも音を外さないのは、それぞれのスケールが対応するコードにそれぞれ収まっているからです。
ダイアトニックスケール、ダイアトニックコードの成り立ちがもともとそういうものなので、当たり前なことなんですけど、それを当たり前のことだと知っておくのは大切なことです。
コードとスケールの組み合わせがチグハグになると「あれ?なんか音を外していない?」ってことになるんですね。
そりゃ、そうでしょって感じでタネも仕掛けもない話なんですけど、ダイアトニックコード、ダイアトニックスケールの知識が無いと永遠の謎になってしまいます。
知ってるのと知らないのでは大きな違いですよね。
転調のない曲ではスケール1発で弾けていても転調後に音を外してしまうのは、転調で入れ替わったダイアトニックコードに対応できていないのが原因です。
心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ダイアトニックコードとかスケールとか難しそう、覚えるのが面倒くさいと感じられるかもしれませんが、実はそんなに覚えることは多くないですし、難しいものではありません。
ご存知でない方は、当ブログでも何回かに分けて取り上げていますので、そちらを検索したりしてご覧いただけると参考になると思います。
一度知ってしまえば、なんだそんな事かというぐらいシンプルな事柄ですし、一生使える知識ですので、例えば30分かけたとしてもその後の音楽人生が大きく開けてくることを考えると、学習コストに対するリターンはとても大きいです。
音を外す大きな原因は、コードにあったスケールの選択ができていないことです。
転調でキーが変わったら、転調後のキーを割り出して、そのキーにあったダイアトニックスケールを使うことで、この問題は大きく改善されます。
文字にするとそれだけなんですけど、それを実際にできるようになるのは簡単なことじゃないんですよね。
簡単に言わないでくれよって感じですよね。
僕もいまだに練習中なので偉そうなことは言えません。
でも、理屈としてはシンプルですよね。
海外旅行に出かけました > 言葉が違います > その国の言葉で話さないとコミュニケーションが取れません
これは当たり前ですよね。
音楽も同じです。
転調してキーが変わりました > ダイアトニックコードが違います > 対応したスケールを弾かないと音を外します
ラッキーなのは外国語の単語を覚えるよりは、はるかに覚えることが少ないことです。
少しずつ覚えていくことで、確実に自由に出かけられるコードが増えていきます。
今まで怖かったスケール外の世界が、少しずつ怖さが和らいで冒険のステージのように感じられるようになってきます。
最初はスライムに苦戦するかもしれませんが、コツコツと挑んで少しずつ少しずつ経験を積んで、疲れたら宿屋で体力やMPを回復してまた冒険に出かけていけば、いつかは勇敢な冒険者に成長していけます。
身近なところに新しい世界の入り口がありますので、試しにその世界を体験してみてはどうでしょう。
曲のキーのダイアトニックコードではないコードが出てきた際には、どのキーに転調しているのか分析する癖をつけておくと少しずつ転調に慣れていくので、そのようなスタイルをご自身の演奏に取り込みたい方は意識して習慣づけていくことをお勧めします。
きっと、小さな挑戦の積み重ねがいつかあなたの強力なスキルになってくれるはずです。
3種のスケールの違いを把握
3つのスケールをバラバラに同時に覚えるのは大変ですが、1つのスケールを覚えてからそれぞれの違いを把握していくと、それほど苦労せずにスケールを覚える事ができます。
先ほども取り上げましたが、ナチュラルマイナースケールと同じ音列のエオリアンスケールを基準にして各スケールの違いを見ていくと、3つのスケールの違いが簡単に分かります。
【エオリアンスケール】
1-2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
【ドリアンスケール】
1-2-b3-4-5-6-b7–1(8)
エオリアンスケールのb6ナチュラルにしたのがドリアンスケール。
【エオリアンスケール】
1-2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
【フリジアンスケール】
1-b2-b3-4-5-b6-b7–1(8)
エオリアンスケールの2をフラットさせたのがフリジアンスケール。
音列とスケールの違いが分かったところで、今度は指板上でも違いを把握して使えるようにしていきましょう。
3つのスケールの中で、2と6の音の違いがスケールの違いになる事が分かりました。
裏を返すと、それ以外の音は共通していると言えます。
共通している音は、1-b3-4-5-b7の5つです。
5つと聞いて、何か思い浮かぶことはありませんか?
そうです、5といえばペンタトニックスケールが思い浮かびますよね。
エオリアン、ドリアン、フリジアンの3つのスケールで共通している音は、マイナーぺンタトニックスケールの音と同じなんです。
極端なことを言うと、メジャーとナチュラルマイナーのキーの曲でダイアトニックコードのマイナーコードではマイナーぺンタトニックスケールを弾いておけば外さないと言えます。
まずはコードトーンでアプローチして、そこに音を足したかったら4の音(コードが3和音の場合はb7も)を足してマイナーペンタトニックにすることでスケールで対応する事ができるようになります。
さらにコードに対応した2と6の音を追加してダイアトニックスケールに移り変わっていくことで、段階的にコードに対応していけるようになっていきます。
これはEmの型のコードに対して、マイナーぺンタトニックスケール、さらにエオリアンスケールへと音を足していった例です。
b6で違和感を感じた時はコードがIImの可能性があるのでb6を半音上げてドリアンスケールに、2で違和感を感じた時はコードがIIImの可能性があるので2を半音下げてフリジアンスケールに乗り換える、このようなアプローチをとっていくと今まで苦手だったマイナーコードへの対応もやりやすくなります。
他のコードの型、スケールでも確認してみましょう。
Dmのコードフォームから派生した配列は覚えにくいので、まずはEm型、それからAm型と指に覚え込ませて、余裕ができてからでも十分です。
鬼滅の刃風に言ったら、「ギターの呼吸Emの型、ドリアンスケール!!」ってところでしょうか?
うむ、よもやよもやだ。
ツーファイブか、それとも3625か
メジャーのキーではIImといえばドリアン、 IIImならフリジアンです。
Em – Am – Dm – G
というコード進行があったとします。
これはCメジャーのキーの IIIm – VIm – IIm – V のコード進行になります。
(キーがGだった場合は、トニックであるGにドミナント進行する手前のコードがDmではなくてDになるので、そこでCメジャーとGメジャーの見分けができます。)
IIImはフリジアンなのでEフリジアン、IImはドリアンなのでDドリアンが自然な流れになります。
上記のコード進行は俗に3625の進行と言われることが多く、6のコードをマイナーではなくドミナント7に部分転調して使われることも多いです。
その場合のコード進行はこのようになります。
Em – A7 – Dm – G
VImがドミナント7コードに変わると、IIIm – VI7 – IIm – V というコード進行であると同時に、 Em – A7 をDメジャーのキーの IIm – V と見なすこともでき、ツーファイブの連続という解釈も成り立ちます。
そうなると、 Emに対応するスケールはEフリジアンではなくてEドリアンになります。
3625という4つのコードからなるコード進行ではなく、ツーファイブの連続という2つのコード進行の繰り返しになるんですね。
この辺りも、「あれ?なんか音外した気がする」という事が起こる要注意箇所になります。
もしIIImにあたるコードが Em7(b9) というようにフラット9の記述があった場合は、そのコードは IIIm になるので、フリジアンスケールが当てはまります。
テンションはオクターブ上の予備的なコードトーンとなり、2のオクターブ上が9、フラット9はフラット2ということでフリジアンスケールが確定します。
ジャズ系の演奏でテンションの表記がない場合は演奏者に委ねられる事が多いようです。
ポップスなどアンサンブルが固まっている演奏の場合は、アレンジャーや作曲者など演奏を取り仕切る人に確認してみるのも一つの方法かもしれません。
ご自身の作曲などで使い分ける場合は、その部分のメロディがより自然に聞こえる方を選ぶと良いでしょう。
ゆったりと4つのコードに渡って流れる大きなメロディーなら3625と解釈してフリジアン、曲のエンディングなどで同じフレーズを部分転調して繰り返す場合はツーファイブの連続でドリアンというように意図的に使い分けられるようになると、曲作りの幅も広がります。
フリジアンか、それともドリアンか、どのような雰囲気を演出したいのかによってスケールや音使いを選んでみてください。
マイナーのキーの場合は、概ねImがエオリアン、 IVmがドリアン、Vmがフリジアンになります。
メジャーと違って、 Iエオリアンがそのまま曲のキーとなるナチュラルマイナースケールになっているので、それぞれのコードでスケールを使い分ける必要はあまりありません。
コード主体のフレーズを使う場合はそれぞれのコードにあったスケールを、曲全体を流れるようなアプローチをする場合はナチュラルマイナースケールというような使い分けで良いでしょう。
(ハーモニックマイナー、メロディックマイナーのコードが出てきた場合は、それぞれのスケールに対応したダイアトニックコードを使う必要があります)
ドリアン、フリジアン、エオリアンの見分け方
それでは、今回のトピックのポイントをまとめてみましょう。
●エオリアンを基準にすると、ドリアンは6の音がナチュラル、フリジアンは2の音がフラット。
●メジャー(長調)のダイアトニックコードでIImはドリアン、IIImはフリジアン、VImはエオリアン。
●ナチュラルマイナー(短調)のダイアトニックコードでImはエオリアン、IVmはドリアン、Vmはフリジアン。
●b9thのテンションがついたマイナーコードはフリジアン。
●IIIm – VI – IIm – V でのIIImはフリジアンかドリアンかの2択になる
ダイアトニックスケールと聞くと覚えなければならないスケールが一気に増えるような気がしますが、今まで身につけてきたメジャースケールとナチュラルマイナースケール、ぺンタトニックスケールを活かせば、そこに少し音を付け足すだけで済みます。
メジャー系のアイオニアンとリディアンが4番目の音の違いだけだったのと同じように、ドリアン、フリジアン、エオリアンは2番目と6番目の音の違いだけです。
その違いを整理できたら、あとの残りのスケールは2つだけです。
その辺りは次回のトピックで取り上げてみたいと思います。
ダイアトニックスケールを自由に使えるようになれたら、作曲やアレンジの能力が数段ステップアップしますので、次回も楽しみにしていてください。
それでは、また次回のトピックでお会いしましょう。